石巻の中心街から牡鹿半島へと車を走らせること50分ほど。潮の香りが流れてきた先には、
「割烹民宿めぐろ」
海、夕陽、星空。旅のはじまりに、最高の場所。
建物の中に入ると、ペンギンさんからいらっしゃい。
案内された部屋には敷き詰められた畳。大きな窓からたっぷりと入ってくる自然光。荷物を置い
て、まずは寝そべって思い切り伸びをする。上体を起こして窓へと目を向ける。先には広がる海。
その海の幸をここでは味わうことができる。釣りや刺し網漁で獲れた新鮮な魚介類。ウニ、
シャコ、アイナメ、カレイ、アナゴ、クジラなどなど。旬のものを最高のタイミングで頂く。
民宿創業以来からの逸品は、キンキのみぞれがけ。二度揚げすることで骨まで食べられる。
サクッ、ジュワッ。あふれ出す牡鹿半島の味。
「浜のものを素直に出しています。以前は板前が出したいものを出していました。ここで獲れ
たことをお伝えするとお客さんに喜んでいただけて。浜に顔を出すようにして直接買うよう
になりました。」
そう語るのは、民宿若旦那の目黒 繁明(めぐろ しげあき)さん。仙台でサラリーマン時代を経
てこの民宿を継いだ。
「仕事に対する意識が変わりました。以前は父や母やおばちゃんがいて、分担が決まっている
中ではなかなか行動できなくて。ただ、スタッフが入れ替わって、自分の立場も変わってきて、
父も事業継承を意識し始めて、覚悟が生まれました。」
民宿のイメージカラーは着ているTシャツの色であるピンク。その理由は、宴会場に飾られて
いる一枚の写真。民宿リニューアル前の建物が写っている。先代の父が民宿が目立つようにと
外観の色はピンクに決定。平成5年に民宿を始めた先代は、呉服店、民謡歌手、捕鯨船、行商
などさまざまな業種を経験。面白いと思ったものはどんどん取り込むというアイデアマンであ
り、行動力のある人だった。積み上げてきた歴史がこの色に詰まっている。
「親父とは似たもの同士なんですよね。営業的なキャラクター、いいとこも、わるいとこも
似てた。違う方向で盛り上げようとするんだけど、いつのまにか似てくる。」
目黒さんは、石巻に移住してきた若者を民宿の若女将として迎え入れた。新しいもの、未知
な世界を拒絶することなく、むしろ積極的に受け入れていく。
「外から来た人と一緒に働くことでいろんな発見ができます。自分ひとりでは何もできません。」
若女将として民宿にやってきたのは、太田和美さん(29)。彼女はHOYAPAIという作品を作る
アーティスト。作品も民宿のイメージカラーのピンクというこれまた不思議な縁だった。それ
ではということで、世界でもここにしかいないHOYAPAI女将が誕生した。
「いってらっしゃい、おかえりなさい、といえる関係づくり。自分がやれることってそうなの
かなあって思っています。人との交流を大切にすること。お客さんが美味しいと言っていた
ことを浜の人に伝えることもそう。自分がお話をすることで、身近に感じてもらえるように。
民宿という枠を広げながら、人に感動を伝えられる場所にしていきたいです。」
やり方は同じではなくとも、人との交流という想いを父から受け継いでいる目黒さん。若旦那の
笑顔、HOYAPAI女将、ピンクの旗の下に生まれていく新しい人との繋がりは、牡鹿半島から広が
っていく。潮の香りを携えて。
「割烹民宿めぐろ」
address|石巻市小渕浜カント2-1
web|http://oshika-meguro.com/
tel|0225-46-2515
写真提供|目黒繁明さん
Photo write|シマワキ ユウ